鯨文庫

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最古の文学デバイス「SFマガジン ルグィン追悼特集」

月末に出たSFマガジンがアーシュラ・K・ルグィンの追悼特集になっている。1月に作家が亡くなり、4月にはユリイカでも特集されていた。

今回のSFマガジンは、ルグィンの中篇小説とインタビュー、追悼エッセイと年譜に作品解説がまとめられている。体力がなくなりパウエルズで朗読もできず残念という昨年11月のインタビューは、静かに暮らす老後を伝えている。SF大会で若手作家に取り巻かれるルグィンを回想するエッセイもよかった。

ファンタジー

カズオ・イシグロ論争という逸話が紹介されていて、検索してみると、2015年にイシグロが「忘れられた巨人」を発表した際に、ルグィンがブログに厳しい批評を書いている。これは波紋を呼んだらしく、イシグロ側はその後ガーディアン紙で反論記事を出した。

発端は、イシグロがNYTの刊行インタビューで、これまでと作風の違う「忘れられた巨人」がファンタジーに見られるのではないかと懸念している、と言ったことで、それに対しルグィンは態度も作品も曖昧すぎると怒りを込めて批判している。

ファンタジーは子供だましの形式ではないというのは、ルグィン長年の主張である。「忘れられた巨人」の文章はぼんやりで、爺さんは妻をどれだけ重ねて「プリンセス」と連呼するのだ、と突っ込みながら、同時に形式についての持論を展開する。「ファンタジーはおそらく現実について語る最古の文学デバイスである」

Fantasy is probably the oldest literary device for talking about reality.

イシグロは談話の形でやんわりと反論している。線を引くなら自分もオーガや妖精の側に立つ者だし、最近の作家はファンタジーを文学に自由に利用していると。

両作家のスタンスの違いがよく出ているのではないだろうか。

ユリイカ

ユリイカの特集もよくて、こちらは1冊そのまま追悼エッセイ集という形になっている。フェミニズムや人類学を通した論評、作家との出会い、作品論、様々で、とくに翻訳者の方々のエッセイは、作家との深い絆を感じさせられるものがありました。